実家の郵便受けに、茶色い封筒が届きます。差出人は日本年金機構、簡易書留。中に入っているのは「年金振込口座の公金受取口座登録に関する意向確認書」という、名前だけで読む気をなくすような書類です。
先に結論を書きます。この書類は、返送しないことが「同意しました」という意思表示になります。読まずに置いておくと、45日を過ぎた時点で「同意した」ものとして扱われ、年金の振込先口座が国の「公金受取口座」として登録されます(登録が完了するのは、受け取ってから約3〜4か月後です)。日本の役所の書類としては、かなり珍しい形です。
登録そのものは、公式の説明を読むかぎり、身構えるような中身ではありません。残高を見られるわけでも、お金を引き出されるわけでもない。ただ、「知らないうちに決まっていた」という状態だけは避けたい——この記事は、そのために書いています。届く対象はおよそ1,600万人。多くの人にとっては、自分ではなく親の郵便受けの話です。
- 実家から「年金の変な封筒が届いた」と電話がきたけれど、本物なのか分からない
- 「返送しないと同意になる」と聞いて、なんだか怖くなった
- 登録すると年金の振込先が勝手に変わってしまうのか心配
- 親に説明したいけれど、自分がまず仕組みを分かっていない
→ ひとつでも当てはまったら、この記事が「何が起きて、何は起きないのか」の整理をお手伝いします。
- 届く封筒の正体と、自分の親に届く時期(生年月日で7段階に分かれています)
- 「返さない=同意」という仕組みの法律上の根拠と、45日を決めているもの
- 印字されている「返送期限(目安)」と、45日が同じではない理由
- 登録されると何が起きて、何は起きないのか(年金の振込先は変わりません)
- 本物とニセモノを分ける、いちばん分かりやすい一点
ふくおさん、実家の母から電話がきたんすけど。年金のことで簡易書留が届いて、ハンコ押して受け取ったって。中身は「口座を登録します、いやなら返してください」みたいな紙らしいっす。これ詐欺じゃないっすか?
それ、たぶん本物だよ。日本年金機構が今年の8月から順番に送っている「意向確認書」だね。年金の振込先にしている口座を、国の公金受取口座としても登録していいですか、という確認の書類なんだ。
本物っすか。でも母が「返さないと同意したことになるって書いてある」って言うんすよ。そんな書類あります? ふつう、同意する人が丸を付けて返すもんじゃないっすか。
そこがこの書類のいちばん変わっているところなんだ。返さなかったら同意したものとして扱うと、法律にはっきり書いてある。45日という期間のほうは、その法律を受けたデジタル庁令で決まっているんだ。これはお母さんの読み間違いじゃなくて、制度がそう作られているんだよ。
ええっ。じゃあ登録されたら何が起きるんすか。年金が別の口座に振り込まれるようになるとか、残高を見られるとか…そういうことっすよね?
どちらも起きないよ。年金の振込先は変わらないし、残高も年金額も国には渡らない。この記事では「起きること」と「起きないこと」を分けて、全部公式の文章で確かめていくね。まずは、うちの親にいつ届くのかから。

僕は以前、ねんきん定期便を何年も開けずに積んでいました。封筒の見た目は明らかに「大事そう」なのに、中身が想像できないから後回しにする。開かないまま次の年のぶんが届いて、山がひとつ高くなる。そういう付き合い方を、けっこう長いあいだしていました。
今回この意向確認書のことを調べていて、いちばん最初に思い出したのがその山でした。もし僕が同じ癖のまま65歳を迎えていたら、この封筒も間違いなく同じ場所に積んだと思います。表には赤い枠で「公金受取口座に関する大切なお知らせです。お早めに開封してください。」と書かれています。それでも、こういう紙はふしぎと後回しになります。急がなければいけない理由のほうが、表からは読み取れないからだと思います。
ねんきん定期便を積んでいたときは、開かなくても何も起きませんでした。損も得もしない、ただ知らないだけの状態です。けれど今回の封筒は、積んだままにすると45日後に結論が出ます。開かないことが答えになる書類は、僕がこれまで受け取ってきた郵便物の中でも、たぶん初めてでした。
2026年8月から2027年2月にかけて、およそ1,600万人に簡易書留が届きます
この封筒は、全国に一斉に届くわけではありません。2026年8月から2027年2月にかけて、生年月日の新しい順に7段階で送られます。デジタル庁が2026年7月31日に公開した広報動画のなかで、担当者はこの封書が届く人について「今年の8月以降、こちらの封書が届く方が全国でおよそ1,600万人います」と説明しています。
対象になるのは、2026年4月15日の時点で65歳以上(昭和36年4月16日以前生まれ)で年金を受け取っていて、まだ公金受取口座を登録していない方です。すでに登録している人には、原則として届きません。ただし書面には「なお、すでに公金受取口座を登録されている場合は、行き違いとなりますので、ご了承ください」という但し書きがあり、行き違いで届くことはあります。その場合も、法律(同法第5条の2第3項)で、すでに登録されている口座情報は変更されないと定められています。
もうひとつ、意外と大事なのが「届かない人もいる」ということです。年金機構は、次のような場合には送付されないと書いています。
意向確認書が送られてこない主なケース
- すでに公金受取口座を登録している
- 2026年4月に年金が支払われなかった(全額支給停止、振込不能)
- 国外に居住している
- 共済組合等から支給される年金のみを受給している
- 2025年6月以降の年金請求手続きで、公金受取口座への登録意思を表示している
デジタル庁の側は、これに加えて「年金受取口座として登録している預貯金口座の金融機関が公金受取口座として登録可能な金融機関に含まれていない場合」や「DV・虐待等の被害者であり、日本年金機構に届出している場合」なども対象外だと説明しています。
⚠️ 「送付予定の時期を過ぎても届かない」なら、登録はされません。デジタル庁は「意向確認書の送付予定期間を過ぎても『意向確認書』が届かなかった場合、対象者ではないため登録されません」と書いています。届かないことを心配して問い合わせを急ぐ必要はありません。
この書類が変わっているのは「返さない=同意」になるところです
ふつうの行政手続きは、やりたい人が申し込む形をしています。ところがこの意向確認書は逆で、やりたくない人が断る形をしています。しかも、断らなかった場合の扱いが「無回答」ではなく「同意」になります。
これは現場の運用ではなく、法律に書かれていることです。根拠は公的給付の支給等の迅速かつ確実な実施のための預貯金口座の登録等に関する法律(令和3年法律第38号)第5条の2。この条文には、書面に記載して知らせるべき事項として、こうあります。
二 当該書面が到達した日から起算して三十日以上が経過した日までの期間としてデジタル庁令で定める期間を経過するまでの間に同意又は不同意の回答がないときは、当該同意をしたものとして取り扱われることとなること。
デジタル庁は、この仕組みを「行政機関等経由登録の特例制度」と呼んでいます。よくある質問のなかでは、「意向確認期間内に不同意の意思表示がなければ(略)、黙示的な同意の意思表示があったとみなして、公金受取口座登録が行われます」と説明されています。条文そのものの言葉は「みなす」ではなく「当該同意をしたものとして取り扱われる」ですが、デジタル庁はこれを「黙示的な同意の意思表示があったとみなして」と言い換えています。回答しなかったこと自体が同意の意思表示として扱われる、という点は同じです。
45日を決めているのは、法律ではなくデジタル庁令です
上の条文をよく読むと、法律が決めているのは「三十日以上」という下限だけで、実際の日数は「デジタル庁令で定める期間」に預けられています。では45日はどこで決まっているのか。同法の施行規則(令和3年デジタル庁令第10号)第11条の2第2項に、一行だけこう書かれていました。
2 法第五条の二第一項第二号のデジタル庁令で定める期間は、四十五日とする。
ついでに同じ条の第3項には「法第五条の二第二項の同条第一項に規定する回答を行うために必要なものは葉書とする」とあります。封筒の中に切り離せるはがきが入っているのも、条文で決まっていることでした。この切り離すはがきが、このあと何度も出てくる「公金受取口座登録不同意申出書」です。
🔎 二階建てになっている、ということ
法律が決めたのは「30日以上」という床だけです。その上でデジタル庁令が「45日」と具体化しました。45日という数字は、国会で決まった法律の本体ではなく省庁の命令のほうに書かれている、という構造です。2026年9月時点の規則では45日となっています。
「返送期限(目安)」と「受け取ってから45日」は、同じではありません
実際の書面には、切り離すはがきのところに〈返送期限の目安〉令和X年XX月XX日までという日付が印字されています。ここが少しややこしいところで、公式の説明を並べると、一見ちぐはぐに見えます。
| どこの説明か | 書かれていること |
|---|---|
| 日本年金機構 Q&AのA7 |
「意向確認書に記載された返送期限の日付は、あくまでも目安となることから、記載された日付を超過して返送した場合でも、不同意として受付が可能な場合があります。」 |
| デジタル庁 よくある質問Q20 |
「意向確認期間を過ぎてしまった場合、受理されず、同意として受付されます。」 |
片方は「過ぎても受け付けられる場合がある」、もう片方は「過ぎたら受理されない」。反対のことを言っているように読めますが、それぞれが見ている「期限」が別物です。
- 印字されている「返送期限(目安)」=書面に前もって刷り込まれた日付。実際に届いた日は人によって違うので、あくまで目安として書かれています。
- 制度上の期限=意向確認書が届いた日から45日。法律の条文も「当該書面が到達した日から起算して」と書いており、デジタル庁も「意向確認の期間(意向確認書の到着から最低45日間)」と説明しています。
印字された目安の日付は、書面を作る時点であらかじめ決められたものです。実際に手元へ届く日は人によって違うので、目安を数日過ぎていても、届いた日から数えて45日以内ならまだ間に合うということが起こり得ます。年金機構がA7で「受付が可能な場合があります」と書いているのは、そういう意味だと読めます。同封のリーフレットにも「返送期限は目安です。経過した後にご返送いただいても間に合う場合がありますので、意向確認書照会専用フリーダイヤルへお問い合わせください」と書かれています。実際の受付可否は、書面の右上にある照会番号を手元に用意して、意向確認書照会専用フリーダイヤル(0120-74-0011)に聞けば確認できます。年金機構自身が、そうするよう案内しています。
⚠️ ただし、狙って遅らせる理由はどこにもありません。
「目安を過ぎても大丈夫かもしれない」は、断りたい人にとっての保険であって、予定ではありません。届いた日が分からなくなることもありますし、45日を本当に過ぎてしまえばデジタル庁の説明どおり不同意は受理されません。断ると決めているなら、印字された目安の日付までに投函するのがいちばん確実です。
登録されると何が起きて、何は起きないのか
ここが、この記事でいちばん伝えたいところです。「知らないうちに登録された」と聞くと、口座を丸ごと国に握られるような印象を持ちますが、実際に起きることはもっと限定的です。
よくある誤解=「年金の振込先が変わるのか」
結論から書くと、変わりません。デジタル庁のよくある質問には、こう書かれています。
公金受取口座の登録によって、自動的に年金受取口座が公金受取口座に切り替わることはありません。年金請求手続き時に公金受取口座を利用する申請をした場合でも自動的に切り替わることはありません。年金の振込先を公金受取口座として登録している別口座に変更したい場合、「年金受給権者 受取機関変更届」の提出等の手続きが必要です。なお、受給されている年金により手続き方法が異なる場合がありますので、不明点がある場合にはお近くの年金事務所等へお問い合わせください。
そもそも今回は、いま年金が振り込まれている口座を、そのまま公金受取口座としても登録するという話です。年金の入り口はいまのまま、そこに「国からの給付金等も受け取れる」という役割がひとつ増える、という理解でだいたい合っています。
登録されない情報のほうも、はっきり書かれています
年金機構のQ&Aは「公金受取口座の登録に同意したことにより、年金受給額や口座残高などの情報をデジタル庁が取得することはありません」と明記しています。デジタル庁の側も「残高などの財産に関する情報は一切登録されません」「国が預貯金を引き出すことはありません」と書いています。
実際にデジタル庁へ渡る情報は、公表されている範囲では次のとおりです。
| 渡るもの | 中身 |
|---|---|
| 口座の情報 | 金融機関・店舗・口座種別・口座番号・口座名義(ゆうちょ銀行の場合は記号・番号・口座名義) |
| 本人を特定する情報 | 個人番号、氏名(漢字・振り仮名)、住所(住民票住所・通知先住所)、生年月日 |
| 渡らないもの | 口座残高、年金受給額 |
公金受取口座そのものは、この意向確認とは別に以前からある仕組みです。デジタル庁によれば、2026年7月時点で全国およそ6,400万人が登録済みで、「災害や緊急時の給付金に加えて、年金や所得税の還付金、高額医療費など、160種類以上の給付金等を受け取れます」とされています(引用は原文のまま。同じデジタル庁でも、封筒に同封されるリーフレットでは「高額療養費」と正式名称で書かれています。なお、ここでの「年金」は公金受取口座で受け取れるものの一覧であって、今回の登録で年金の振込先が変わるという意味ではありません)。確定申告で還付金を受け取るときに口座を書かなくてよくなる、というのがいちばん身近な例だと思います。
あれ、思ってたより怖くないっすね。残高も見られないし、年金の振込先も変わらない。じゃあ母には「そのまま放っておけばいいよ」って言っちゃっていいっすか?
そこは分けて考えたいんだ。登録の中身は怖くない。でも「本人が知らないまま決まる」のは別の話だからね。お母さんが内容を分かったうえで放っておくなら、それは立派に選んだことになる。分からないまま45日が過ぎるのとは、同じ結果でも意味が違うよ。
たしかに。うちの母、封筒を開けたけど途中で読むのやめたって言ってたっす。…あ、それだと「読まなかった」だけで登録されるってことっすよね。
そういうことになるね。だからこの記事の宿題は、断ることでも同意することでもなくて、「中身を知ったうえで決める」ところまで持っていくことなんだ。決め方は、次の見分け方のところまで読んでからでも遅くないよ。
本物の意向確認書には、口座番号が載っていません|ニセモノとの見分け方
制度そのものよりも、こちらのほうが心配だという人は多いと思います。実際、公的な通知をかたる手口はいくらでもあります。ただ今回に関しては、本物を見分ける手がかりが、書面そのものの中にはっきりあります。
年金機構が公開している意向確認書の見本には、口座情報の欄のすぐ下に、こう書かれています。
※上記情報の他に、氏名、個人番号等のデジタル庁令で定める情報もデジタル庁に提供します。
なお、個人情報の保護の観点から、口座番号については表示しておりません。
つまり、本物の書面の口座欄に印字されているのは、年金の種別(年金コード)と、金融機関名・支店名等・預金種別までで、口座番号は伏せられています。逆に言えば、口座番号が全部書かれていたり、口座番号を書いて返送するよう求めていたりする紙が届いたら、そこで手を止める理由になります。
| 確かめるところ | 本物はこうなっています |
|---|---|
| 届き方 | 簡易書留。対面で受け取る必要があり、不在なら差出人欄に「日本年金機構」と書かれた不在票が入ります |
| 封筒 | おもてに赤い枠と赤字で「公金受取口座に関する大切なお知らせです。お早めに開封してください。」。右側に「親展」「簡易書留」「重要書類在中」。デジタル庁は「茶色の封筒」と説明していますが、年金機構が公開している見本は淡い黄色です。色だけで判断しないほうが確実です |
| 差出人 | 封筒の[差出人]は「日本年金機構」(東京都杉並区高井戸西3-5-24)で、デジタル庁と厚生労働省のロゴが並びます。中の意向確認書は「厚生労働省」の名義です。返信の宛先は「日本年金機構 公金受取口座登録集中処理センター行き」 |
| 照会番号 | 書面の右上に「XXXX-XXXX-XXXX」。問い合わせのときに必要です |
| 口座番号 | 載っていません(保護のため非表示) |
| 返送のしかた | 同封のはがきに目隠しシールを貼って投函。切手は不要(料金受取人払郵便) |
| お金の要求 | ありません。年金機構・厚生労働省・デジタル庁が手数料などの金銭を求めることはない、と明記されています |
| 電話・SMS・メール | 年金機構・厚生労働省・デジタル庁が口座番号等の提供を求めることは一切ありません |
| 問い合わせ先 | 書面に印字されるのは意向確認書照会専用フリーダイヤル 0120-74-0011(意向確認書・不同意申出書のこと)とマイナンバー総合フリーダイヤル 0120-95-0178(音声ガイダンス6番/制度全般・登録の抹消)の2本、およびフリーダイヤルが使えないとき用の050番号(050-3524-7372/050-3816-9405)です |
最後の一行は、詐欺対策としてもかなり効きます。年金機構は「市区町村の窓口や年金事務所の窓口では対応しておりませんので、ご注意ください」と書いていて、デジタル庁も「市区町村の窓口、年金事務所、年金相談センターでは問合せに対応できません」としています。この件で連絡を取っていい相手は、意向確認書に印字されたコールセンターだけです。意向確認書や不同意申出書のことは0120-74-0011、公金受取口座そのものや登録の抹消は0120-95-0178(音声ガイダンス6番)と、窓口が分かれています。
⚠️ 逆に、やってはいけない3つ
- かかってきた電話の相手に、口座番号や暗証番号を伝える
- SMSやメールのリンクから「登録手続き」に進む
- 手数料・登録料の名目でお金を払う
デジタル庁は「デジタル庁から対象者個別にお送りするのは、公金受取口座の登録結果に係るはがきやマイナポータルのお知らせメールのみです」としたうえで、電話・SMS・メールで回答を求めることは一切ないと書いています。不審な連絡は基本的に無視して構いませんが、デジタル庁は「犯罪に巻き込まれた可能性がある場合には、お住まいの地域を所管する警察署や警察相談専用窓口(#9110)へご相談ください」とも案内しています。
お金にまつわる「本物そっくりの連絡」の見分け方は、SNS型投資詐欺の記事でも書いたことと同じです。判断しようとせず、手元にある公式の連絡先で確かめる。今回はその連絡先が、書面にはっきり印字されています。
受け取れなかったとき、紛失したときはどうなる?
ここは安心していい部分です。簡易書留は対面で受け取る必要があるので、受け取れなかった場合は登録されません。年金機構のQ&Aには「ご不在等の理由により意向確認書を受け取られていない場合、公金受取口座の登録は行われません」とあります。
- 不在で受け取っていない:登録されません。届けてほしい場合は、不在票から再配達を申し込みます
- 長期の不在で受け取れない:同じく登録されません。登録したい場合は、マイナポータルや金融機関で自分で手続きします
- 予定の時期を過ぎても届かない:対象者ではないため登録されません
- 書類をなくした:再発行はありません。ただし断りたい場合は「任意の様式で申出可能な場合がありますので」と案内されているので、専用ダイヤルに相談します
⚠️ 印字されている口座が、いまの口座とは限りません。年金機構は「意向確認書に記載されている口座は、令和8年4月15日に年金をお受け取りになった口座です。そのため、年金受取口座の変更を行っている場合は、現在の年金受取口座と異なる口座が記載されます」と説明しています。そこは、書面を開いて本人に確かめてもらうしかない部分です。もし違う口座が印字されていたら、そのまま放置すると意図しない口座が登録されます。
断りたいときの手順と、あとから気が変わったとき
断る手続きそのものは、驚くほど簡単です。年金機構のリーフレットには3ステップで書かれています。
- 切り取り線にそって不同意申出書を切り離す
- 不同意申出書に目隠しシールを貼り、裏面の差出人欄を記入する
- ポストに投函する(切手は不要)
本人が書くのが難しい場合についても、はっきり書かれています。「本人による回答が困難である場合は、本人の意思を確認したうえで、後見人や家族が代理で回答することも可能です」。ただし「代理で提出する場合であっても、原則、不同意申出書の差出人欄については対象者本人の氏名を記入してください」とされています。代筆はできるけれど、名前は本人のもの、という整理です。
そして、この制度の救いはあとから変えられることです。
| 状況 | できること |
|---|---|
| 返送し忘れて登録された | 登録完了通知が届いたあと、マイナポータルまたは金融機関で登録の抹消ができます |
| 不同意を出したが、やはり登録したい | マイナポータルまたは金融機関で自分で登録手続きをします |
| 印字された口座とは別の口座にしたい | 不同意申出書を返送したうえで、マイナポータルまたは金融機関で別の口座を登録します |
| 登録を急いでいる | この特例では情報提供が45日後になるため、急ぐなら自分で登録するほうが早い、と案内されています |
💡 「取り返しがつかない」ものではありません
45日を過ぎると不同意は受け付けられませんが、それはこの特例の窓口が閉じるという意味であって、公金受取口座の登録が一生固定されるという意味ではありません。登録されたあとでも、マイナポータルや金融機関の窓口で解除できます。そこを知っておくだけで、この封筒の圧はずいぶん下がると思います。
この封筒をきっかけに、自分の側でも整えておけること
ここまでは親世代に届く書類の話でしたが、公金受取口座そのものは年齢に関係のない仕組みです。2026年7月時点で全国およそ6,400万人が登録していて、そのうちの何人かは「いつのまにか登録していた」人だと思います。確定申告で還付を受けたときや、給付金を申請したときに、画面のチェックひとつで登録されていることがあるからです。
自分がどうなっているかは、マイナポータルで確認できます。そのうえで、この機会に整理しておくと落ち着くのが「お金の入り口を、どこにするか」です。
- 給付金・還付金の入り口:公金受取口座に登録した口座に入ります。確定申告による所得税の還付金、高額療養費など、160種類以上が対象とされています
- 給与の入り口:勤め先に届け出ている口座。源泉徴収される所得税や社会保険料、住民税が引かれたあとの金額が入ります
- いざというときのお金の置き場所:生活防衛資金は、使う口座と分けておくほうが減りにくくなります
入り口がばらばらだと、「どこに入ったか分からない」が起きます。実際、デジタル庁の「よくある質問:公金受取口座の利用・給付金等の受取」でも、給付金がどの口座に振り込まれるのかという話が最初に並んでいます。口座の役割分けについては、お金の置き場所を3つに分ける記事にまとめています。
それともうひとつ。今回の意向確認書は、「何もしないと進む」仕組みの分かりやすい例でもありました。同じ形は家計のあちこちにあります。解約しないと引き落とされ続ける固定費、設定しないと初期設定のままになるNISAやiDeCoの商品選び、止めない限り続く積立。方向がいいほうを向いていれば頼もしい仕組みですが、向きを一度も確かめていないなら、それは決めたことになっていません。

会社の企業型DCに入っていたころ、僕は自分のお金が何で運用されているのかを知らないまま、ずいぶん長く過ごしていました。給与明細に名前が載っているのは知っていたのに、中身を見たことがなかったんです。あとから分かったのは、会社が用意していたのは商品の一覧までで、そこからどれを選ぶかは僕の役目だった、ということでした。
決めた覚えがない、ということは、決めなかったという形で決まっていたということです。その事実に気づいたとき、金額のことより先に、自分の名前で持っている資産の中身を一度も見ていなかったという状態のほうが引っかかりました。個人で入るiDeCoと同じ「確定拠出年金」なのに、僕の中では名前すら結びついていませんでした。
今回の意向確認書を読んでいて思い出したのが、そのときの感覚です。構造がそっくりでした。何もしなければ、何もしなかったなりの結論が出る。違うのは、あのときは僕自身の口座で、僕以外に気づける人がいなかったこと。今回は、書類が届くのが親でも、先に気づいた家族が電話で声をかけられる位置にいるということです。あのとき誰かに「中身、見た?」と聞いてもらえていたら、僕はもう少し早く選べたと思います。
整理させてくださいっす。届いた封筒は本物。放っておくと45日で登録される。でも残高は見られないし、年金の振込先も変わらない。断りたければはがきを出す。あとから変えることもできる。…であってます?
完璧だよ。もうひとつ足すなら、印字されている口座が、いまお母さんが使っている口座と同じかどうかだけは見ておきたいところだね。書面の口座は2026年4月15日時点のものだから、そのあと変更していると別の口座が載っていることがあるんだ。
あー、それは自分では気づけないやつっすね。口座番号が載ってないんだから、支店名と種別で見比べるしかないっすか。
そうなんだ。だから電話で「どこの銀行の、どの支店って書いてある?」と聞くところから始めるのがいいと思う。そこが今使っている口座と同じなら、あとは同意するか断るかを決めるだけになるよ。
今夜さっそく電話するっす。「年金の簡易書留、開けた?」から入るっすね。
それでじゅうぶんだよ。この記事のゴールは、断らせることでも同意させることでもなくて、知らないまま45日が過ぎるのを止めることだからね。決めるのはお母さんでいいんだ。
まとめ|今日できるのは、実家に電話を一本かけることだけです
この記事で書いたことを、もう一度だけ並べます。
- 2026年8月から2027年2月にかけて、約1,600万人に簡易書留で意向確認書が届く
- 受け取った日から45日、不同意申出書を返送しないと「同意」として扱われる
- 45日は法律ではなくデジタル庁令が決めた日数(法律は「30日以上」とだけ定めている)
- 印字された返送期限は目安。制度の起算点は「届いた日」
- 登録されても年金の振込先は変わらず、残高も年金額も渡らない
- 本物の書面には口座番号が載っていない。年金機構・厚生労働省・デジタル庁が電話・SMS・メールで口座情報を聞くことはない
- 登録されたあとでも、マイナポータルや金融機関で解除できる
制度としては、たぶん悪い仕組みではありません。マイナポータルの操作が難しい人や、金融機関まで出向くのが大変な人でも登録できるようにする、というのが国の説明です。デジタル庁自身も、なぜ断る側に手続きをさせるのかという質問に対して「登録を希望される方が簡単に手続きできることを目指した制度となっているため」と答えています。狙いは分かります。
それでも僕がこの記事を書いたのは、結論の中身より「決め方」のほうが気になったからです。同意でも不同意でも構いません。ただ、封筒を開けないまま45日が過ぎて決まるのは、決めたことになりません。そして、書面が届くのが親の家であるほど、その45日は静かに過ぎます。
📝 この記事の結論
- 意向確認書は返送しないことが同意の意思表示になる、珍しい形の書類です
- 登録の中身は限定的です。年金の振込先も残高も変わりません
- 問題は制度の危なさではなく、本人が知らないまま結論が出ることです
✨ 今日からできること
- 親の生年月日から、届く時期を確かめる(記事の上の表で分かります)
- 電話で「茶色い封筒、開けた?」と聞く。それだけで45日は止まります
- 開けていたら、印字された金融機関名と支店名が、いま使っている口座と同じかを確かめてもらう
- 断ると決めたら、目隠しシールを貼って、印字された目安の日付までに投函(切手不要)
- 迷ったら電話で確かめる。意向確認書や返送のことは意向確認書照会専用フリーダイヤル 0120-74-0011、登録の抹消など制度そのもののことはマイナンバー総合フリーダイヤル 0120-95-0178(音声ガイダンス6番)。市区町村・年金事務所・ねんきんダイヤルでは対応していません
📮 親の年金の話を始めるなら、まず自分の年金から見ておくと話しやすくなります
ねんきん定期便の見方を読む →ハガキのどこを見るか・公的年金シミュレーターの使い方
🏦 入ってきたお金の「置き場所」から整えたいなら
お金の置き場所を3つに分ける →生活費・もしも(生活防衛資金)・未来の3口座で、入ってきたお金が迷子にならない形にする
※この記事は情報提供を目的としたもので、公金受取口座への登録・不登録のどちらかを勧めるものではありません。手続きの可否や個別の事情については、意向確認書に記載の専用ダイヤル(0120-74-0011)でご確認ください。記事中の制度内容は2026年9月時点のもので、最新の内容は日本年金機構・デジタル庁・e-Gov法令検索の公式情報でご確認ください。市区町村の窓口、年金事務所、ねんきんダイヤルではこの件の対応は行われていません。
よくある質問(FAQ)
Q. 意向確認書が届きました。何もしないとどうなりますか?
A. 年金振込口座が公金受取口座として登録されます。日本年金機構は「意向確認書を受け取られてから45日以内に『公金受取口座登録不同意申出書』の返送がない場合、年金振込口座を公金受取口座として登録することに『同意』されたものとして取り扱います」と説明しています。根拠は公的給付の支給等の迅速かつ確実な実施のための預貯金口座の登録等に関する法律(令和3年法律第38号)第5条の2第1項第2号で、条文にも「同意又は不同意の回答がないときは、当該同意をしたものとして取り扱われることとなること」と書かれています。
Q. 45日はいつから数えるのですか?
A. 意向確認書が届いた日からです。条文は「当該書面が到達した日から起算して」と書いており、デジタル庁も「意向確認の期間(意向確認書の到着から最低45日間)」としています。なお45日という日数は法律ではなく、同法の施行規則(令和3年デジタル庁令第10号)第11条の2第2項の「法第五条の二第一項第二号のデジタル庁令で定める期間は、四十五日とする」で決まっています。法律の側は「三十日以上」という下限だけを定めています。
Q. 書面に印字された「返送期限(目安)」を過ぎてしまいました。もう断れませんか?
A. 印字された日付と、制度上の45日は別物です。年金機構のQ&Aには「意向確認書に記載された返送期限の日付は、あくまでも目安となることから、記載された日付を超過して返送した場合でも、不同意として受付が可能な場合があります」とあります。一方でデジタル庁は「意向確認期間を過ぎてしまった場合、受理されず、同意として受付されます」としています。矛盾ではなく、前者は印字された目安、後者は到達から45日という制度上の期間の話です。実際に間に合うかどうかは、書面右上の照会番号を用意して意向確認書照会専用フリーダイヤル(0120-74-0011)に確認してください。断ると決めているなら、目安の日付までに出すのが確実です。
Q. 登録されると、年金の振込先が変わってしまいますか?
A. 変わりません。デジタル庁は「公金受取口座の登録によって、自動的に年金受取口座が公金受取口座に切り替わることはありません」と明記しています。そもそも今回は、いま年金が振り込まれている口座を公金受取口座としても登録する、という話です。年金の振込先そのものを変えたい場合は「年金受給権者 受取機関変更届」の提出などが別に必要になります。
Q. 口座の残高や、年金をいくらもらっているかを国に知られますか?
A. 登録されません。年金機構のQ&Aには「公金受取口座の登録に同意したことにより、年金受給額や口座残高などの情報をデジタル庁が取得することはありません」とあります。デジタル庁も「残高などの財産に関する情報は一切登録されません」「国が預貯金を引き出すことはありません」としています。実際に渡るのは、金融機関・店舗・口座種別・口座番号・口座名義(ゆうちょ銀行は記号・番号・口座名義)と、個人番号・氏名・住所・生年月日です。登録した口座は、高額療養費の払い戻しや確定申告の還付金など、給付金等を受け取るための入り口として使われます。
Q. 本物かどうか、どこで見分けられますか?
A. いちばん分かりやすいのは、口座番号が載っていないことです。年金機構が公開している見本には「なお、個人情報の保護の観点から、口座番号については表示しておりません」と書かれており、印字されているのは金融機関名・支店名等・預金種別までです。ほかに、簡易書留で対面受け取り、「公金受取口座に関する大切なお知らせです」と書かれた茶色の封筒、返送は切手不要(料金受取人払)、といった特徴があります。日本年金機構・厚生労働省・デジタル庁が、電話・SMS・メールで口座番号等の提供を求めることや、手数料などの金銭を求めることは一切ありません。
Q. 親が不在で受け取れませんでした。勝手に登録されてしまいますか?
A. 登録されません。年金機構は「意向確認書は簡易書留郵便でお送りするため、対面でお受け取りいただく必要があります。ご不在等の理由により意向確認書を受け取られていない場合、公金受取口座の登録は行われません」としています。届けてほしい場合は、投函された不在票(差出人欄に「日本年金機構」と記載)から再配達を申し込みます。なお、送付予定の時期を過ぎても届かない場合は、そもそも対象者ではないため登録されません。
Q. 親の代わりに、家族が書いて返送してもいいですか?
A. 本人の意思を確認したうえでなら可能です。年金機構は「本人による回答が困難である場合は、本人の意思を確認したうえで、後見人や家族が代理で回答することも可能です」としています。ただし「代理で提出する場合であっても、原則、不同意申出書の差出人欄については対象者本人の氏名を記入してください」とされています。書くのを手伝うことはできますが、名義は本人のものになります。
Q. 一度登録されたら、もう解除できませんか?
A. 解除できます。デジタル庁は「公金受取口座登録完了通知が届きましたら、お手数ですが、マイナポータルもしくは金融機関等にて公金受取口座の登録抹消の手続きを行ってください」と案内しています。45日を過ぎると受け付けられなくなるのは、この特例制度での不同意の申し出であって、公金受取口座の登録そのものが固定されるわけではありません。逆に、不同意を出したあとで登録したくなった場合も、マイナポータルや金融機関で自分で手続きできます。
Q. 意向確認書に書いてある口座が、いま使っている口座と違うようです。
A. 記載されているのは2026年4月15日時点の口座です。年金機構は「意向確認書に記載されている口座は、令和8年4月15日に年金をお受け取りになった口座です。そのため、年金受取口座の変更を行っている場合は、現在の年金受取口座と異なる口座が記載されます」と説明しています。いまの口座を公金受取口座にしたい場合は、不同意申出書を返送したうえで、マイナポータルや金融機関で自分で登録します。記載内容に心当たりがないときは、専用ダイヤルに問い合わせてください。
※本記事は情報提供を目的としており、特定商品の購入推奨ではありません。公金受取口座への登録・不登録の判断はご自身(またはご本人)の意思でお願いします。記事中の制度内容は2026年9月時点のもので、最新の内容は日本年金機構・デジタル庁・e-Gov法令検索の公式情報でご確認ください。手続きの可否や個別の事情は、意向確認書に記載の専用ダイヤル(0120-74-0011)へご確認ください。市区町村の窓口、年金事務所、年金相談センター、ねんきんダイヤルではこの件の対応は行われていません。
詳細は 免責事項 をご確認ください。
最終更新日:2026年9月16日














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