証券口座を開いて、毎月コツコツ積み立てて、しばらく経ったころ。画面の数字が「+◯◯万円」になっている日が、だんだん増えてきます。NISAの口座数は、2025年12月末で2,820万口座(金融庁調べ)。2024年に今の制度が始まってから2年8か月。はじめてプラスの画面を見た、という人も増えています。
そこで出てくるのが「これ、売ったほうがいいの?」という迷いです。この記事は、その答えを決める記事ではありません。売るかどうかを決める前に、知っておくと判断がまるごと変わる制度の話をします。いちばん大きいのは、これです。NISAの1,800万円は「買った値段」でしか数えません。だから増えた分は、非課税枠を1円も使っていません。
- 増えた分も1,800万円の枠を食っているのでは、と気になっている
- 「利確」(売って利益を確定させること)をしないと、この利益は消えてしまう気がする
- せっかくプラスになったのに、また下がったらもったいない
- 増えた話は自慢に聞こえそうで、まわりに相談しにくい
→ ひとつでも当てはまったら、この記事が「売る前に知っておくこと」の整理をお手伝いします。
- NISAの1,800万円が「買った値段」で数えられている理由
- 含み益が非課税枠を1円も使っていない仕組みと、その根拠
- 売ったときに戻ってくる枠の金額と、戻ってくる時期
- 「増えた分だけ売る」ができない理由(総平均法に準ずる方法の話)
- それでも売っていい場面と、売る理由にしないほうがいいこと
最近まわりで「NISAがプラスになってきた」って話をよく聞くんすけど、これって放っておいていいんすか? 増えた分も1,800万円の枠を使っちゃってる気がして、なんか落ち着かないっす。
そこ、いちばん誤解が多いところなんだ。結論から言うと、増えた分は枠を1円も使っていないよ。NISAの1,800万円は「買った値段」でしか数えないんだ。
えっ、マジっすか!? じゃあ100万円で買ったものが150万円になっても、使ってるのは100万円のままってことっすか?
そのとおり。100万円のままだよ。増えた50万円は、枠の外側にいるんだ。……ただ、ここからが大事なところで、売っても戻ってくるのは、買った値段の100万円だけなんだ。増えた50万円ぶんまで非課税で持てていた場所は、売った時点でなくなる。
えっ、戻ってこないんすか。じゃあ売らないほうがいいってことっすか? 自分、なんだかよけい分からなくなってきたっす…。
「売るな」って話じゃないよ。売っていい場面はちゃんとある。ただ制度の形を知らないまま売ると、思っていたのと違う結果になるんだ。形だけ先に見てから、決めるかどうかを考えようか。

2020年3月、コロナショックで口座が真っ赤になったとき、僕は約50万円の含み損を抱えていました。あのときは売らずに持ち続けて、数か月で戻りました。ただしこれは僕ひとりの、あの時期の結果にすぎません。持ち続けても元本割れのまま終わることはあります。よく語られるのはここまでです。
でも僕にとって、本当に落ち着かなかったのはそのあとでした。数字がプラスに転じて、じわじわ増えていく時期です。減っているときは「待つ」の一択で、やることがない。ところが増えていると、「今なら」という選択肢が急に生まれてしまう。売る理由も、売らない理由も、どちらも自分で作れてしまうんです。
しかもこの落ち着かなさは、人に言いにくい。減ったときは「いや、大変だったね」で終わるのに、増えたときは同じ言い方ができません。だから僕は当時、誰にも相談せずに、ひとりで画面を開いたり閉じたりしていました。
「増えてきた」は、まだ動いていない数字です
まず言葉から整理します。含み益とは、まだ売っていない状態での、評価上の利益のことです。買ったときの金額より今の金額のほうが高い、というだけの状態で、お金が手元に入ってきたわけではありません。翌週には減っているかもしれないし、増えているかもしれません。
おもしろいのは、国の統計もこの2つをはっきり分けて持っていることです。金融庁が公表している「NISA口座の利用状況に関する調査結果」には、買った金額を集計した表と、時価(いま売ったらいくらか、という今日の値段)を集計した表が別々にあります。それぞれの注記はこうなっています。
買付額の表の注記
「買付時の時価により算出。」
時価残高の表の注記
「2025年12月31日時点における時価総額。ただし、一部の金融機関では基準日時点の計数が把握不能の為、直近値で集計。」
出典:金融庁「NISA口座の利用状況に関する調査結果(2025年12月末時点)」(令和8年7月3日公表)
注記にある「買付時の時価」は、買ったその日の値段=買った金額のことです。いまの値段で数えているのは、もう一方の表だけです。買ったときの値段と、いまの値段。この2つは、国の集計でも最後まで別々の数字として扱われます。ひとつの口座の中に、性格の違う2つの数字が同居している——これがこの記事の全部の土台になります。
そして、これは増えたときだけの話ではありません。買った値段より今の値段のほうが低い状態は「含み損」と呼ばれますが、そちらも同じで、売るまで金額は確定しません。ふくおが下がったときの記事で「慌てて売らなくていい」と書いてきたのと、この記事で「慌てて売らなくていい」と書くのは、じつは同じ理屈から出ています。動いているのは評価額のほうで、自分が入れた金額は動いていないからです。
ふくおのこれまでの記事は、どうしても「下がったとき」に厚くなっていました。下がったときのほうが検索されるからです。でも実際に口座を持っていると、プラスの画面を見ている期間のほうが長くなる人もいます。上がっているときに何を見ればいいのかを、ここで一度そろえておきます。
NISAの1,800万円は、買った値段で数えます
NISAには、生涯で非課税にできる金額の上限があります。非課税保有限度額=1,800万円(うち成長投資枠だけを使う場合は1,200万円)です。この1,800万円を、何で数えているのか。金融庁の答えはこうです。
「非課税保有限度額については、買付け残高(簿価残高)で管理されます。このため、NISA口座内の商品を売却した場合には、当該商品の簿価分の非課税枠を翌年以降に再利用できることとなります。」
出典:金融庁 NISA特設ウェブサイト「よくある質問」
「簿価」は聞き慣れない言葉ですが、金融庁も証券会社も、そのまま「簿価(取得金額)」と言い換えています。つまり買った値段です。この先、取得価額・取得費・平均取得単価という言い方も出てきますが、どれも「買った値段」をもとにした言葉だと思ってください。
図1:枠は「買った値段」でしか動かない
100万円で買った商品が、120万円になっても80万円になっても、使っている枠は100万円のまま
この管理は、金融機関ごとではなく利用者ごとに行われます。日本証券業協会の説明では、複数の金融機関にNISA口座がある場合でも「各金融機関のNISA口座で保有する商品の金額を国税庁において名寄せして算出します」とされています。どこの会社で買ったかに関係なく、自分の1,800万円は1つにまとめて数えられるということです。
📝 細かいけれど、知っておくと得なところ
- 枠の計算に購入手数料等は含みません(日本証券業協会「非課税保有額の計算は簿価(取得価額)ベースで行いますが、購入手数料等は考慮しません」)
- 2023年までの旧NISAの残高は、今の1,800万円の外枠で管理されます(合算されません)
だから、含み益は非課税枠を1円も使っていません
ここまでを合わせると、答えが出ます。枠は買った値段で数える。含み益は買った値段には含まれない。したがって、含み益は非課税保有限度額を1円も使っていません。
これは理屈だけの話ではなくて、金融庁が自分で出している資料の中に、そのままの形で出てきます。「NISAを利用する皆さまへ」というスライド(2024年6月・2025年9月改訂)の32ページに、こんな試算が載っています。
図2:金融庁の試算そのものが、枠と評価額のズレを見せている
投資元本1,800万円が約3,525万円になっても、使っている枠は1,800万円のまま
金融庁の資料は、この結果を「約3,525万円(投資元本の約2.0倍)」と書いています。このとき使っている非課税保有限度額は、1,800万円のまま。差額の約1,725万円は、枠を1円も使っていないということになります。
「増えた分が枠を食っているのでは」という不安は、ここで完全に消えます。むしろ制度は逆で、増えれば増えるほど、枠1,800万円あたりで抱えられる資産は大きくなる設計になっています。
ここから、よく聞かれるもうひとつの疑問にも答えが出ます。「評価額が1,800万円を超えたら、はみ出した分はどうなるの?」——何も起きません。上限がかかっているのは買った金額の合計であって、評価額ではないからです。図2の例でいえば、評価額が3,525万円になっても、口座から追い出される商品はありませんし、非課税の扱いが途中で切れることもありません。
逆に言うと、1,800万円まで買い終わったあとに評価額が下がっても、枠が戻ってくることはありません。ここも「買った値段でしか動かない」の一部です。増えても減っても、枠の目盛りは自分が入れた金額の位置で止まったままになります。
含み益に税金がかからないのは、NISAだからではありません
ここだけは、順番を間違えないでほしいところです。よく「NISAだから含み益に税金がかからない」という説明を見かけますが、これは正確ではありません。
含み益に税金がかからないのは、NISAだからではありません。売っていない利益には、そもそも税金がかからないからです。特定口座でも一般口座でも、持っているだけの状態なら課税されません。
では、NISAの非課税はいつ効いてくるのか。売って利益が確定したときと、配当金・分配金を受け取ったときです。(上場株式・ETF・REITの配当金は、受取方法に「株式数比例配分方式」を選んでいる場合に限ります。投資信託の分配金は、この手続きなしで非課税です。)通常はここに税金がかかります。金融庁の資料では、その税率が次のように書かれています。
「※ 税率20.315%の内訳は、所得税15%、地方税5%、復興特別所得税0.315%。」
出典:金融庁「NISAを利用する皆さまへ」(2024年6月・2025年9月改訂)2ページ
| 状態 | 特定口座・一般口座 | NISA口座 |
|---|---|---|
| 持っているだけ(含み益) | 課税されない | 課税されない ※ここは同じ |
| 売って利益が確定した | 20.315%が引かれる | かからない |
| 配当金・分配金を受け取った | 20.315%が引かれる | かからない(上場株式等の配当金は「株式数比例配分方式」を選んだ場合) |
この表を1行でまとめると、こうなります。NISAの価値は「持っている間」ではなく「動かしたとき」に出る。だから、含み益のまま置いてあること自体は、税金の面では損も得もしていません。
条文には「時価」という言葉が、一度も出てきません
ここまで金融庁と証券会社の説明を並べてきましたが、いちばん上の根拠にも当たっておきます。NISAの根拠条文の中心は、租税特別措置法の第37条の14です(配当の非課税は第9条の8が担当しています)。e-Gov法令検索から条文の全文(約24,000字)を取り出して、実際に語を数えました。
| 条文に出てくる語 | 回数 |
|---|---|
| 取得対価の額 | 7回 |
| 購入の代価 | 4回 |
| 時価 | 0回 |
| 簿価 | 0回 |
1,800万円の判定をしている部分は、こう書かれています。
「…上場株式等の購入の代価の額に相当する金額として政令で定める金額をいう。…の合計額が千八百万円を超えることとなるときにおける当該特定累積投資上場株式等を除く。」
出典:租税特別措置法 第37条の14 第5項(e-Gov法令検索)
読みにくい文ですが、要点は1つだけです。枠の判定に使われているのは「購入の代価」=買った値段だけ。値上がりも値下がりも、条文の視界に入っていません。ちなみに「簿価」も0回で、これは法令用語ではなく、行政や証券会社が分かりやすさのために使っている言い換えです。
なぜこの設計なのかは、日本証券業協会が制度の趣旨として引用しています。非課税保有限度額は「投資余力が大きい高所得者層に対する際限ない優遇とならないよう」(自由民主党・公明党「令和5年度税制改正大綱」より)に設定された、というものです。「いくら入れたか」を制限したいのであって、「いくらになったか」を制限したいわけではない。だから買った値段で数える。そう考えると、筋が通っています。
法律の話になった瞬間、頭が真っ白になったっす…。結局のところ、自分は何を覚えて帰ればいいっすか?
1個でいいよ。「NISAの1,800万円の枠は、買った値段でしか動かない」。これだけ。増えても枠は減らないし、減っても枠は増えない。法律のほうが最初から値動きを見ていないんだ。
なるほど、値動きは枠と関係ない…。じゃあ増えてるうちは、とくに何もしなくていいってことになるんすかね。
枠の話だけならそうなるね。ただ売ったときの動き方は、また別の話なんだ。ここからは、そっちを見ていこうか。
売った瞬間、増えた分の枠は戻ってきません
NISAの大きな特徴に「枠の再利用」があります。売れば、その分の枠がまた使えるようになる仕組みです。ただし戻ってくるのは、売った金額ではありません。買った値段です。楽天証券の説明が、いちばんはっきり書いています。
「再利用できる枠は売却時点の金額ではなく、取得時点の金額となります。仮に100万円で購入した商品を80万円や120万円で売却した場合も、翌年再利用が可能となる枠は購入時の金額の100万円です。利益分や損失分は考慮されません。」
出典:楽天証券「新NISAの年間投資枠と非課税保有限度額」
SBI証券も同じで、「その商品の簿価分※の枠を翌年に再利用することができます(※投資信託や株式などの取得価額)」と案内しています。会社によって言い方は違いますが、扱いは同じです。
| 100万円で買った商品を… | 受け取る金額 | 翌年に戻る枠 |
|---|---|---|
| 120万円で売った | 120万円(税金は引かれない) | 100万円 |
| 100万円で売った | 100万円 | 100万円 |
| 80万円で売った | 80万円 | 100万円 |
表の1行目を、もう一度見てください。120万円を受け取っているのに、戻る枠は100万円です。増えた20万円ぶんの「非課税で持てる場所」は、売った時点で消えます。お金が減るわけではありません。減るのは、これから非課税で持てる余地のほうです。
⚠️ 「売れば損益がなくなる」わけではありません
金融庁は「NISA口座で保有している商品を売却した場合に損益がなくなるということではありません。」とわざわざ書いています。売っても、増えた・減ったという事実そのものは残ります。変わるのは、非課税で持てる枠の使い方だけです。
枠が戻るのは翌年。年間投資枠に上乗せもされません
ここには、見落とされやすい条件があと2つあります。戻るのは翌年であることと、戻った枠は年間投資枠に上乗せされないことです。
図3:枠が戻るのは翌年。しかも上乗せはされない
簿価100万円分を売っても、翌年に投資できるのは年間360万円の範囲内
金融庁のスライドには、はっきり書かれています。「再利用できる非課税保有限度額が、その年の年間投資枠に上乗せされるわけではない。」楽天証券も同じことを「再利用する場合でも、年間投資上限額の360万円を超えて投資することはできませんので、ご注意ください」と案内しています。
日本証券業協会も、年内の使い回しについてこう答えています。「ある年に一度利用した年間投資枠をその年に再び利用することはできません」。つまり「今年売って、今年また買い直す」で枠を増やすことはできないということです。
具体的にはこうなります。今年すでにつみたて投資枠で120万円を使い切っている人が、8月に簿価100万円分を売ったとします。この100万円の枠が使えるようになるのは来年の1月からで、今年の残り4か月では、つみたて投資枠で新たに買うことはできません。そして来年になっても、その年に投資できる合計は360万円が上限のままです。
ここまで来ると、「枠を空けるために売る」という考え方が、あまり実りのないものだと分かります。空いた枠が使えるのは翌年で、翌年に使える金額も変わらない。そのあいだ、売った分は市場から外に出ていることになります。
⚠️ 旧NISAを持っている人への注意
2023年までの旧NISA(一般NISA・つみたてNISA)で持っている商品を売っても、今の1,800万円の枠は復活しません。金融庁の資料にも「2023年までのNISA口座において保有している商品を売却しても、現行NISAの非課税保有限度額は再利用は不可。」と書かれています。旧NISAは外枠での管理なので、そもそも1,800万円を使っていない、という理屈です。
もうひとつ、金融機関を変えた人向けの条件もあります。「金融機関の変更を行い、変更前の金融機関において保有する商品を売却した場合、その枠を再利用できるのは、変更後の金融機関におけるNISA口座に限られる。」——変更を考えている場合の段取りは NISA口座の金融機関は、あとから変えられます にまとめてあります。
「増えた分だけ売る」は、どの口座でもできません
検索していると「含み益だけ売る」「増えた分だけ引き出す」という言葉によく出会います。気持ちはとても分かるのですが、これはNISAに限らず、どの口座でもできません。
理由は、売ったときの取得費の決め方にあります。国税庁の説明はこうです。
「…同一銘柄の株式等を2回以上にわたって購入し、その株式等の一部を譲渡した場合の取得費は、総平均法に準ずる方法によって求めた1単位当たりの金額を基に計算します。」
出典:国税庁 タックスアンサー No.1466(令和7年4月1日現在法令等)
毎月投資信託を買っていると、安いときに買った分も高いときに買った分も、すべて1つの平均に混ざります。「この月に買った、いちばん値上がりしている分だけ」を選んで売ることはできません。
🧮 数字で見るとこうなります
- 毎月3万円を24か月積み立てた → 買った金額の合計は72万円
- いまの評価額は90万円(含み益18万円)
- ここから評価額ベースで30万円分を売ると…
- 売るのは全体の3分の1なので、そのうち24万円は自分が出したお金、6万円が利益
- 翌年に戻る枠は、24万円だけ(利益の6万円ぶんは戻りません)
「利益だけ抜いて、元本はそのまま置いておく」ができないので、売れば必ず、元本と利益が一緒に出ていきます。ここは、売る前に知っておくとイメージが変わるところだと思います。
なお、証券会社の画面に出る「平均取得単価」(1口あたり、平均していくらで買ったか)は、手数料の扱いなどが会社によって少し違うことがあります。実際の金額は、口座の画面や取引報告書でご確認ください。
上がっても枠は増えず、下がっても損は使えない
ここで、この記事の裏側にあたる話をしておきます。NISAには、値動きの結果を制度が拾ってくれない場面が2つあります。
ひとつは、ここまで見てきたとおり「増えても枠は増えない」こと。もうひとつは、「下がっても、その損は税金の計算に使えない」ことです。根拠は条文にあります。
「…譲渡による収入金額が…取得費及びその譲渡に要した費用の額の合計額…に満たない場合におけるその不足額は、所得税に関する法令の規定の適用については、ないものとみなす。」
出典:租税特別措置法 第37条の14 第2項(e-Gov法令検索)
「ないものとみなす」——NISA口座で出た損は、税務上そもそも存在しなかった扱いになります。金融庁の資料も「NISA口座から得られた損益を、他の口座(一般口座や特定口座)と損益通算することは不可。また、損失を翌年以降に繰越することも不可。」と注記しています。
| 上がったとき | 下がったとき | |
|---|---|---|
| 1,800万円の枠 | 増えない(買った値段のまま) | 減らない(買った値段のまま) |
| 売ったときの税金 | かからない | — |
| 損の取り扱い | — | 他の口座と相殺できない・繰り越せない |
この2つを並べると、NISAという制度の性格が見えてきます。「値動きの結果」に対して、制度はほとんど反応しないのです。上がっても枠は変わらない。下がっても枠は変わらない。損も、税務の世界には入れてもらえない。
だからこそ、NISAが暴落した。売るべき? の記事で説明した「資産が下落しても枠は変わらない」という話と、この記事の「値上がりしても枠は増えない」という話は、まったく同じ仕組みの裏表です。下がったときに慌てなくていい理由と、上がったときに慌てなくていい理由は、同じ1行から出てきています。

2018年、僕は130万円を失いました。投機で130万円を溶かした話として別の記事に書いたことなのですが、いま思い返すと、あのときの入口は「損したくない」ではなく「いま利益が乗っている」だったんです。
プラスの数字を見ると、それを守りたくなります。守るためにいったん現金にして、下がったら買い直せばいい——そう考えて動きました。そして、その判断はほとんど当たりませんでした。売った理由が「相場がこうなっているから」だったからです。相場は、僕の都合を知りません。
いまは、売る理由を相場ではなく予定に置くようにしています。使う予定があるから売る。割合が偏ったから直す。それ以外の理由で口座を触らない。ルールとしては地味ですが、2018年の自分に一つだけ伝えられるなら、これを言うと思います。
それでも、売っていい場面はあります
ここまで「売ると枠が減る」という話を続けてきたので、念のため書いておきます。この記事は「売るな」と言っている記事ではありません。売っていい場面は、ちゃんとあります。
| 場面 | 考え方 |
|---|---|
| 使う予定があるとき | 教育費・住宅・老後の生活費など、使う時期が決まっているお金。そのために貯めてきたのだから、使うのが目的にかなっています |
| 家計が苦しくなったとき | 借金をして積立を続けるより、いったん減らす・止めるほうが健全な場面があります |
| 配分が大きく偏ったとき | いわゆるリバランス。ただしNISAの中で売って買い直すと、買い直しにその年の年間投資枠を使い、売った分の1,800万円の枠が戻るのは翌年なので、慎重に |
それぞれ、別の記事にまとめてあります。使う時期の話は NISAの出口戦略|貯めたお金は、いつ・どう使う?、家計の都合の話は 積立、やめていい?やめる前に知っておきたい4つの選択肢、配分の話は 投資信託のバランス、直したほうがいい? です。
⚠️ 逆に、売る理由にしないほうがいいと僕が思う3つ
- 「利確しないと消えるから」——「利確しなかったから」という理由で含み益が消えることはありません。ただし値下がりすれば減りますし、なくなることもあります
- 「枠を空けたいから」——枠が戻るのは翌年で、その年の年間360万円に上乗せもされません
- 「いまが高いと思うから」——相場の予想を前提にした判断で、当てにいく必要のない部分です
「相場ではなく予定で決める」と言われても、実際にはどう決めればいいのか。僕が自分に対して使っている問いは、3つだけです。
🧭 売る前に、自分に聞く3つ
- そのお金を、いつ使うのか(時期が言えないなら、まだ売る場面ではないことが多いです)
- 売らないと、その予定が本当に困るのか(手元の現金や賞与でまかなえるなら、急ぐ必要はありません)
- その判断を、相場が違う動きをしていても同じようにするか(同じにしないなら、理由は予定ではなく相場のほうです)
3つ目がいちばん効きます。「上がっているから売る」も「下がっているから売らない」も、相場を理由にしている点では同じです。相場を外しても同じ答えになるなら、それはたぶん、自分の予定から出てきた判断です。
最後に、金融庁がNISAの利用者に向けて書いている一文を置いておきます。「利用者自身が、各々のライフプランやライフステージを踏まえ、どのような資金ニーズが発生するか、それに対応してどのような資産形成が必要かをよく考えることが重要であること。」——売るか売らないかを決めるのは相場ではなく、生活のほうだ、と読めます。生活防衛資金が手元にあるかどうかも、同じ話です。
だいぶ整理できたっす。でも自分、まだ口座も持ってないんすけど…この話って、始める前から知っておいたほうがいいやつっすか?
知っておくと、あとで揺れにくくなると思うよ。増えたときにやることは、実はほとんどないって先に分かっていれば、プラスの画面を見ても落ち着いていられるからね。
ほとんどない、っすか。てっきり「増えたら何か手続きしなきゃ」って思ってたっす。
手続きはいらないんだ。しいて言うなら、評価額じゃなくて、枠の利用状況がわかる画面を一度だけ見ること。画面の名前は会社によって違うよ。そこに出てるのが、自分が実際に入れた金額の合計だよ。増えた分が入っていないことを、目で確かめてほしいんだ。
自分も始めたら、まずそこを見てみるっす! 数えるだけなら、売る売らないで悩まなくていいっすもんね。
そう。数えるだけなら、何も失われないからね。売るかどうかは、そのあとで生活の予定と一緒に考えればいいよ。焦らなくていい、自分のペースで大丈夫。
まとめ|見るのは評価額ではなく、枠の残りのほう
NISAが増えてきたときにやることは、ほとんどありません。増えた分は枠を使っていないので、置いたままにしていること自体が、枠の面で不利になることはないからです(値動きで元本割れすることがあるのは、置いていても売っても変わりません)。それでも何か一つやるなら、評価額ではなく枠の利用状況を見ることをおすすめします。売る判断は、そのあとで生活の予定と並べて考えれば間に合います。
- NISAの1,800万円は簿価(買った値段)で数える。含み益は枠を1円も使っていない
- 「含み益が非課税」ではない。非課税が効くのは売ったときと配当・分配金を受け取ったとき(通常は20.315%。上場株式等の配当金は「株式数比例配分方式」を選んでいる場合)
- 売ると、戻るのは買った値段の分だけ。増えた分の枠は戻らない
- 戻るのは翌年で、その年の年間360万円に上乗せもされない
- 「増えた分だけ売る」はできない(総平均法に準ずる方法で、元本と利益が一緒に出ていく)
- 証券会社にログインして、評価額ではなくNISAの投資枠の利用状況がわかる画面を1回だけ開く(画面の名前は会社によって違います)。売る手続きは何もしない
- そこに出ている数字が、自分が実際に入れた金額の合計。増えた分が1円も入っていないことを目で確かめる
- 使う予定のあるお金かどうかを、売買より先に整理する(NISAの出口戦略)
- 下がったときの考え方も対で読んでおく(NISAが暴落した。売るべき?)
投資の話は、どうしても「いくら増えたか」に集まります。でも制度のほうは、増えた金額をほとんど見ていません。見ているのは、入れた金額と、その置き場所だけです。この形を知っておくと、プラスの画面もマイナスの画面も、少し静かに眺められるようになると思います。
📱 これから始めるなら、「枠は買った値段で数える」という形を最初に知っておくと、途中で迷いにくくなります(口座開設料・口座管理料は0円です)
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※この記事は情報提供を目的としたもので、特定の金融商品の売買(保有の継続・売却を含む)を推奨するものではありません。投資信託には元本割れの可能性があり、将来の運用成果を保証するものではありません。「0円」は口座開設料・口座管理料についてのもので、取引手数料や投資信託の信託報酬など、商品・取引に応じた費用は別途かかります。NISAは非課税で投資できる制度(箱)で、値動きするのはその中で買った投資信託などの商品です。記事中の税率・制度内容は2026年9月時点のもので、最新の内容は金融庁・国税庁および各社公式サイトでご確認ください。個別の税務の取り扱いについては、所轄の税務署または税理士にご確認ください。実際の枠の利用状況・平均取得単価・売却時の取り扱いは、ご利用の金融機関にご確認ください。
よくある質問(FAQ)
Q. 含み益って、そもそも何ですか?
A. まだ売っていない状態での、評価上の利益のことです。買ったときの金額より今の金額のほうが高い、というだけの状態で、お金が手元に入ってきたわけではありません。売って初めて金額が確定します。逆に、まだ売っていない状態での損は「含み損」と呼びます。
Q. 含み益は、1,800万円の枠を使っていますか?
A. 使っていません。金融庁は「非課税保有限度額については、買付け残高(簿価残高)で管理されます」と説明しています。枠は買った値段だけで数えるので、評価額がいくらになっても、使っている枠は変わりません。
Q. 「NISAの含み益は非課税」と聞いたのですが、合っていますか?
A. 言葉としては少しずれています。含み益に税金がかからないのは、NISAだからではありません。特定口座でも一般口座でも、売っていない利益には課税されないからです。NISAの非課税が効くのは、売って利益が確定したときと配当金・分配金を受け取ったときです。通常はここに20.315%(所得税15%・地方税5%・復興特別所得税0.315%)がかかります。なお、日本証券業協会は、上場株式やETF・REITの配当金・分配金を非課税とするには「株式数比例配分方式」を選ぶ必要があり、「『株式数比例配分方式』以外の方式で配当金等を受け取る場合には、非課税とはならず、20.315%の税率で源泉徴収されます」と説明しています。株式投資信託の分配金については、この手続きがなくても非課税です。
Q. 増えた分だけを売ることはできますか?
A. できません。国税庁は、同じ銘柄を2回以上に分けて買って一部を売った場合の取得費は「総平均法に準ずる方法」で計算する、としています。積立で毎月買っていると、すべてが1つの平均取得単価に混ざるため、「値上がりしている分だけ」を選んで売ることはできません。売れば、元本と利益が必ず一緒に出ていきます。
Q. 売ったら、枠はいつ戻りますか?
A. 翌年以降です。その年のうちには戻りません。しかも、金融庁の資料に「再利用できる非課税保有限度額が、その年の年間投資枠に上乗せされるわけではない。」とあるとおり、翌年に投資できるのはつみたて投資枠120万円+成長投資枠240万円=年間360万円の範囲内です。
Q. 2023年までの旧NISAの分を売ったら、枠は戻りますか?
A. 戻りません。金融庁の資料に「2023年までのNISA口座において保有している商品を売却しても、現行NISAの非課税保有限度額は再利用は不可。」と明記されています。旧NISAの残高は今の1,800万円の外枠で管理されているため、そもそも1,800万円を使っていない、という整理になります。
Q. NISAで損をしたら、他の口座の利益と相殺できますか?
A. できません。租税特別措置法は、NISA口座での譲渡損について「その不足額は、所得税に関する法令の規定の適用については、ないものとみなす」としています。金融庁の資料でも「他の口座(一般口座や特定口座)と損益通算することは不可。また、損失を翌年以降に繰越することも不可。」と注記されています。
Q. みんなの含み益は、平均でいくらくらいなのでしょうか?
A. NISA全体の含み益は公表されていません。金融庁の調査には「買った金額」と「時価残高」の表がありますが、買付額のほうは2014年からの累計で、売却した分も含まれます。この2つを引き算しても含み益にはならないので、平均を計算することはできません。他人の数字より、自分の口座の「枠の利用状況」を見るほうが役に立つと思います。
Q. 金融機関を変えたあとに売ったら、枠はどちらで使えますか?
A. 金融庁は「金融機関の変更を行い、変更前の金融機関において保有する商品を売却した場合、その枠を再利用できるのは、変更後の金融機関におけるNISA口座に限られる。」としています。変更そのものの手順は、本文でも触れた「NISA口座の金融機関は、あとから変えられます」の記事にまとめています。
📎 参考にした主な公的情報・一次情報
- 金融庁:NISAを利用する皆さまへ(2024年6月・2025年9月改訂・PDF)
- 金融庁 NISA特設ウェブサイト:NISAを知る
- 金融庁 NISA特設ウェブサイト:よくある質問
- 金融庁:NISA口座の利用状況に関する調査結果(2025年12月末時点・令和8年7月3日)
- e-Gov法令検索:租税特別措置法 第37条の14
- 国税庁:No.1466 同一銘柄の株式等を2回以上にわたって購入している場合の取得費
- 日本証券業協会:NISAのよくある質問
- e-Gov法令検索:租税特別措置法 第9条の8(非課税口座内の少額上場株式等に係る配当所得の非課税)
- 楽天証券:新NISAの年間投資枠と非課税保有限度額
- SBI証券:NISAの非課税投資枠の再利用について
※本記事は情報提供を目的としており、特定商品の購入推奨ではありません。投資判断はご自身の責任でお願いします。
詳細は 免責事項 をご確認ください。
最終更新日:2026年9月11日













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